社員が挑むパラリンピックアスリート社員の挑戦

朝日新聞社の「オリンピック パラリンピック・スポーツ戦略室」で働く森宏明さんは入社して1年目です。森さんは、北京2022冬季パラリンピックの出場を目指すアスリート社員でもあります。今の仕事やアスリートとしての活動、自身の就職活動について聞きました。

Profile

森宏明
2019年4月 朝日新聞社入社
1996年生まれ。野球部で主将、投手、四番として活躍していた高校2年の夏に、交通事故で両足を切断。明治大学文学部に入学し、3年生のとき(2017年)、パラノルディックスキーを始める。

Profile 森宏明

今の仕事について教えてください。

オリンピック パラリンピック・スポーツ戦略室(スポ戦)の室員として勤務しています。スポ戦は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会や、さらにその先を見据えながら、朝日新聞社としてのスポーツ戦略を担う部署です。朝日新聞社は、東京2020大会のほかにも、サッカーやバスケットボール、高校野球など様々なスポーツを支援しています。
私の担当は、オリンピック・パラリンピックやバスケットボールなどです。東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会の組織委員会とやりとりをしたり、学生の全国バスケットボール大会を運営するために、企業や団体との間に入って調整したりする仕事もしています。

アスリートとしてのトレーニングや競技活動は。

トレーニングは基本的に、勤務の前後や休日を使って実施しています。東京本社に社員向けのジムがあるので、仕事が終わってから持久系の有酸素運動やウェートトレーニングをしています。現在はパラノルディックスキー※の指定強化選手なので、東京都北区にあるナショナルトレーニングセンターを利用することもできています。たまに気分を変えて、近所のスポーツ施設に行くこともあります。

〈パラノルディックスキー〉
パラノルディックスキーには、クロスカントリー競技とバイアスロン競技がある。その総称として「パラノルディックスキー」と呼ばれている。クロスカントリーは、専用のスキーとストックを使って滑走しタイムを競う。バイアスロンは、クロスカントリースキーとライフル射撃を組み合わせた競技で、タイムと射撃の成績をあわせて順位が決まる。

今シーズンのワールドカップは、ノルウェー・リレハンメル大会、ドイツ・フィンステラウ大会に出場しました。
競技を始めて3年目ですが、仕事と競技を両立させる初めてのシーズンになります。

会社に入って働きながら競技を続ける理由は、周囲の方々の「身近な存在」でありたいという思いがあるからです。「障がい」とか「アスリート」とか「パラリンピック」とか、ポジティブに捉えられることが増えていく半面、まだまだ遠い世界の人たちのように認識されてしまうことがあるのは、すこし寂しい気もしています。私は、なにも特別な世界で生きていたいわけではなく、有名になりたいわけでもない。日々、悩んだり葛藤したりするのは誰もみな同じことだと感じますし、そうした苦難をともに考えて、ともに乗り越え、先の時代を創っていきたい。そうした信念を掲げて日々アスリート活動にも邁進しています。

私は幼いころから野球やあらゆるスポーツに挑戦させていただく機会がありましたが、自分自身がスポーツビジネスの現場で働くにつれて、その環境が当たり前でないことをあらためて実感することとなりました。
どの競技でも、活動を続けていくためには、やはりお金が必要になっていきます。私も、経済的な理由で競技を断念する経験が過去にはありました。競技を続けられなくなるリスクは、競技者としてトップレベルを目指す選手でも同様の問題を抱えています。だからこそ、次の世代における私たちの役割は、子どもたちがスポーツ以前に社会の一員として、大いに挑戦できる機会と環境、そしてこれらの選択肢をつくっていくことにあるだろうと感じます。子どもたちに夢や希望を与えていくためにも、まずは自分がプレーヤーとして走りながら、その経験から生まれる何かを社会に還元できるような人材になれていることが今の私の夢です。スポーツ教育の分野においても、「何が大切か」を自分たちで考えて行動に移すことができる、持続的な社会を目指す必要性をこれからも投げかけていきます。

就活生にアドバイスを。

自身の就活を振り返ると、大学のキャリアセンターへ行かずに1人で就活を進めていたようにも感じました。もっと人に会って話したり聞いたりしてみても良かったのかなあ、なんて今は思います。

私は、就活を通じて「障がい」というものは、できることとできないことがはっきりしただけだと感じられるようにもなりました。当然、誰しも得手不得手はありますが、自分は、それがより分かりやすく表面的に出てきただけだって、そう思っていたら自然と吹っ切れることができました。

たとえば私の場合、「両足が義足なので普段は走れないし、ジャンプもできません。しゃがみ込めないから和式のトイレはできる限り避けて生きています。そのかわり、こういうことはできますよ」って発想をプラスに転換して、まずは自分なりに努力をしてみようと行動していきました。それを人に伝えて理解してもらい、サポートを得ることは別に後の話でもいいのではないかと感じる場面も多かったからだと思います。
就活の際には「就業上の配慮は」「何が必要か」と採用の担当者からはよく聞かれます。基本的には「自分はいまこういう状況で、ときどき脚の調子が悪くなることもあって、もしかしたら車椅子を日常的に使わなければいけない状況になるかもしれません」とはっきりと正直に伝えるようにしていました。

私はビジネス部門で入社しました。その理由は、あらゆることが経験できそうだと直感的に思ったからです。自分は際限なくあらゆるものに興味関心を持っている人間なので、既存の枠にあてはめられるとパフォーマンスが存分に発揮されないだろうなとも感じます。だから、限界を決めずに色々とチャレンジしてみて、その結果として何か会社に貢献できることを望んでいます。

ほかに就活生の方々に伝えたいことと言えば、大事なのは、気の持ちようだということです。たとえば採用選考にどうやって受かるかを考えるだけでなく、就活を越えたもっと先で「会社に入って何ができるかな」と入社した後のことをイメージすると、自然と楽しくなってくるようにも思います。うまくいかないときもあるかもしれませんが、完璧に物事をこなしていこうと思うとだんだん気持ちがしんどくなって、後々苦しくなってきてしまいます。だから、たまには自分を認めたり、許してあげたりすることも肝心です。それは決して甘えではなく、自分を大切にすることとイコールに捉えていけたら良いですね。

それと、会社でやりがいだけを求めるのでなく、そこでの「やりよう」も同時に考えていけたら無敵のように思います。いま自分が言っている「やりよう」とは、「どうしてもこれ」と強くこだわりすぎて、思うようにならずに落ち込むのではなく、その場所で自分の役割を見極めて、どうするかを考えてみてもいいかなというスタンスです。やり方は人によってそれぞれで違うはず。べつに取り繕う必要もないと思います。どこまでも「自分らしく」を大切に、自分なりの選択で未来を切り開いてください。

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