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02 デジタル戦略

デジタル時代に朝日新聞社はどう自らを変化させ、ブランドを進化させていくのか。
戦略の中枢を担う山盛英司デジタル・イノベーション本部長に聞きました。

朝日新聞社のデジタル事業の強みとは?

山盛:私たちは朝日新聞デジタル(朝デジ)という、圧倒的な質と量をそろえたコア事業を持っています。全国・世界に張り巡らせた取材網を持ち、信頼のおける1次情報や分析をきちんと届けられる仕組みがあります。これは新興のネットメディアには手が出せない決定的な強みだと思います。
 さらに、多様なデジタルのメディアやサービスを展開しています。これは他のいわゆる伝統メディアには追いつけない強みだと思っています。この約20年間に100以上のサービスをスクラップ&ビルドしてきた知見があります。新興メディア、伝統メディア、両方に対する強みを持っていると自負しています。

 朝デジは、動画などを取り込んだマルチメディア・コンテンツが国際的にも評価され、数々の受賞をしています。しかし、あえて言えば、まだまだ紙の新聞をデジタルに置き換えた「電子版」の延長といえます。例えば、政治、経済、社会、国際といったジャンルの分け方などは紙の時代の遺産でしょう。朝デジはいち早くスマートフォン対応をしましたが、編集局が1日に生み出している1000~2000本という膨大なコンテンツは、スマホの小さな画面ではあまりに窮屈です。その中から、読者の皆さんそれぞれが必要としている情報を、スマホの小さな画面を通していかに効果的に届けることができるかは、私たちが日々、挑戦している大きな課題です。  今後、テクノロジーを活用して、読者ひとりひとりの好みにあわせて記事を配信できるようになれば、1日に配信する情報は現在の量では足りなくなるかもしれません。読者のニーズに合わせて、ニュース・コンテンツと読者との「出あい」をさらに強化していくことが、朝デジの進んでいく道だと思います。

アジア・デジタル・メディア賞銀賞受賞

 朝日新聞デジタルの特集「ナガサキノート あの日、人々の足取り」が、世界新聞・ニュース発行者協会(WAN-IFRA)の選ぶ2018年のアジア・デジタル・メディア賞で、データビジュアライゼーション部門の銀賞を受賞しました。また、同じく朝日新聞デジタルの特集「GRIM」がライフスタイル・スポーツ・エンターテインメント部門で銀賞を受賞しました。アジア・デジタル・メディア賞の銀賞受賞は、日本メディアとしては過去最高です。

ビジネスモデルの変化、どう対応する?

山盛:デジタル時代はビジネスモデルが非常に激しく変化しています。私が社会人になった時は「パソコン」というハードを作るメーカーがデジタル・ビジネスの頂点に君臨していました。やがてOSやソフト、インターネット検索、ソーシャル、プラットフォームと、主役が次々と交代していきました。そのサイクルが急速に早まっているということと、その時々に最も収益をあげる仕組み(ビジネスモデル)が将来も持続可能性があるかどうかは分からないというのが、私の実感です。

 変化の中でサバイバルしていくために最も重要なことは、課題を抱えていたり、「ほしいな」と思っていたりする読者、あるいはユーザーに、「こんな情報がほしかったんだ」と満足してもらえる、しっかりとしたコンテンツ、サービスを提供することで応えていくことだと確信しています。それは、朝日新聞社がずっと責任をもって取り組んできたことでもあります。広告やイベントなどでお付き合いしているクライアントの皆さんに対しても同じです。ソリューション(解決策)を提供していくという姿勢と、それを実現するスキルを私たちは持っています。

変えていかねばならないことは?

山盛:新聞記者が1本の記事を書く。それを一人に届けるだけではなくて、数十万人、数百万人に届ける。顧客が増えれば増えるほど、少ないコストで収益を拡大していけるという魅力的なビジネスは、新聞や出版、放送業界がこれまで得意としてきました。特に新聞は定期購読者をたくさん抱え、時には2世代、3世代にわたって購読していただけるロイヤル顧客に支えられてきました。また、媒体力を生かした多様な広告ビジネスも生み出してきました。
 ところが、こうした収益性の高いビジネスモデルを、新興のデジタルメディアやプラットフォームがITの技術を活用することで、より効率的、効果的に展開しようとしています。全産業の中で、世界的にデジタル化の波が押し寄せた最初の産業がしばしばメディアとエンターテインメントだと指摘されるのは、ビジネスの仕組みが実はよく似ているからだと思います。
 一方で、私たちのような伝統メディアは最も効率的にビジネスモデルを作ってきたために、その成功体験に縛られて、デジタル時代のスピードや考え方にすばやく対応できなくなりがちです。だったら、勇気を出して、そういった成功体験をいったん捨ててしまえばいい。捨ててしまった後に、もう一回立ち返って、私たちの強みってなんだろうと突き詰めれば、もっといろんなチャンスが見えてくると思っています。

紙の世界とデジタルの世界、何が違う?

山盛:いまYouTuberの人たちと一緒にサービスを作っていますが、私も紙の世界の人間だったので、その面白さが今ひとつピンとこなかった(笑)。たとえば、朝日放送テレビ(ABC)と一緒に、YouTuberのみなさんの力を借りて、ネット上で動画投稿サイト「#部活ONE!」を運営していますが、画面の作り方がテレビの人とYouTuberではまったく違うんですね。固定されたアングルの画面を継ぎ足し編集して流し続けるなんて、テレビじゃ絶対やらないでしょう。

YouTubeを見ている人たちにとってはそれが当たり前で、むしろ見やすい。そういう意味では、カメラを何台も使ってアングルを変えて映像をつないでいくというこれまでのテレビ制作の常識をいったん捨てないといけない。自分たちが正しいと思っていることを捨てる覚悟を持たないと、新しいビジネスを学び直すことが難しくなりつつあるのだと思います。なので、デジタル・イノベーション本部では、一回成功体験を忘れるunlearnをして、もう一度学び直すrelearnをしましょうと言っています。

朝日新聞デジタル以外のビジネス展開は?

山盛:私たちの収益の半分は朝日新聞デジタル。もう半分は、データベース事業や外部配信事業などこれまでの蓄積を利活用する事業です。これからは朝日新聞社だけではなく、ほかの企業、協力者とお互いの強みを出し合って、新しい価値を生み出していく必要があると思っています。
 高校野球をネットでライブ中継をする「バーチャル高校野球」はその典型です。ABCと朝日新聞社が中心ですが、それだけでは成立しない。全国のテレビ局、ラジオ局に、時には系列を超えて協力していただいて、地方大会を中継している。その結果、2018年夏の100回大会は約700試合を配信できました。
バーチャル高校野球

新聞社の未来像は? その未来で活躍するどんな人材が必要?

山盛:大きくいうと、朝日新聞社の未来像は、ユーザーが向き合っているサービスの多様さだと思います。その中には、朝日新聞社というブランドを名乗らないサービスもあるかもしれません。朝日新聞社の未来像はユーザーのみなさんの中に宿っていくものだと思う。
 デジタル・イノベーション本部の同僚たちに、「一緒に働きたい仲間って?」と聞いてみました。「新しいことに前向きな人」「思いついたアイデアを魅力的に語れる人」「自分の考えをきちんと伝えられる人」などなど。そう思っているということは、自分たちがあまり得意じゃないということの裏返しかもしれませんね。私たちはどこか謙遜しすぎたり、真面目すぎたり、大所高所から正論を語りだしたり、「新聞」の価値が当たり前すぎたので、ちゃんと魅力を説明できなかったり、そんなところがありますね(笑)。だから、そういうことを新鮮な目で見て、真っ直ぐに伝えられる仲間が必要なんです。
 ビジネスの目的は、ユーザー(顧客)を創り出して、維持していくことだと思っています。それはお金につながるだけでなく、私たちの本当の価値が何かを教えてくれます。他人の言葉に素直に耳を傾けることで、自分を作り変えていける人がいいですね。だれでも10年もたてば成功体験を積み上げられますが、変化のスピードが速いデジタルの事業では、それが次の新しい世代の邪魔になっているかもしれません。だから、新しい価値観に耳を傾けて自分を変えていける、そんな人に仲間になってほしいと思います。

Profile

山盛英司(やまもり・えいじ)
 デジタル・イノベーション本部長。
1988年朝日新聞社入社、AERAを経て、神戸支局、学芸部・文化部(現・文化くらし報道部)でアートや評論などを担当。2012年にデジタル事業本部長補佐、2014年大阪本社生活文化部長、2016年からデジタル本部(現デジタル・イノベーション本部)の本部長。

Profile 山盛英司(やまもり・えいじ)

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