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創業140年の「ベンチャー企業」

2019年1月に創刊140周年を迎える朝日新聞社。その間ずっと受け継がれてきたのは、何事にもチャレンジする「ベンチャー精神」。その多様な取り組みを、インタビューや事例を通して紹介します。

01 新規事業

新しいメディアのあり方を探る実験工房「メディアラボ」。2013年6月に発足し、新規事業開発やベンチャーへの投資など様々な挑戦を続けています。
堀江隆・執行役員(メディアラボ担当)が、朝日新聞社の未来像、そしてそこで活躍する人材像について語りました。

メディアラボ設立の経緯を教えてください。

堀江:もともと朝日新聞社はベンチャー精神旺盛な会社でした。ただ、新聞業があまりにうまくいっていたので、そこに過度に依存する構造になってしまいました。その他の領域を耕していくというミッションを掲げ、2013年6月に設立されたのがメディアラボです。

 柱の一つは、社員から新規事業提案を募る「START UP」。提案した人がメディアラボに異動して事業を立ち上げられ、自分でキャリアを切り開くことができる仕組みです。毎年100件以上、この5年で700件超の提案があり、「朝日自分史」のように億円単位の売り上げがある事業も生まれています。

 もう一つの柱はベンチャー投資。僕らだけでは見えないビジネスを学ぶために様々なベンチャーに出資してきました。昨年4月にはCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を立ち上げて、テレビ朝日、朝日放送、メ~テレ、九州朝日放送、東日本放送、日刊スポーツ、学情、沖縄タイムスと共同でファンドを作り、投資をしています。

 さらに、ベンチャー企業や大学との共同研究にも挑戦していて、コンピューターが記事から自動で見出しをつける「自動見出し」など自然言語処理分野で成果を出しています。

堀江:もともと朝日新聞社はベンチャー精神旺盛な会社でした。ただ、新聞業があまりにうまくいっていたので、そこに過度に依存する構造になってしまいました。その他の領域を耕していくというミッションを掲げ、2013年6月に設立されたのがメディアラボです。

 柱の一つは、社員から新規事業提案を募る「START UP」。提案した人がメディアラボに異動して事業を立ち上げられ、自分でキャリアを切り開くことができる仕組みです。毎年100件以上、この5年で700件超の提案があり、「朝日自分史」のように億円単位の売り上げがある事業も生まれています。

 もう一つの柱はベンチャー投資。僕らだけでは見えないビジネスを学ぶために様々なベンチャーに出資してきました。昨年4月にはCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を立ち上げて、テレビ朝日、朝日放送、メ~テレ、九州朝日放送、東日本放送、日刊スポーツ、学情、沖縄タイムスと共同でファンドを作り、投資をしています。

 さらに、ベンチャー企業や大学との共同研究にも挑戦していて、コンピューターが記事から自動で見出しをつける「自動見出し」など自然言語処理分野で成果を出しています。

新聞業と新聞社の未来をどう捉えていますか?

堀江:その日に起きたことが、翌日には600万近い世帯に届くというメディアはそうはありません。そこは大きな強みだけど、今後も新聞の部数、広告収入が減っていくのは間違いないと思う。一方で、朝日新聞社では、デジタルや不動産など、これまでのアセット(資産)を使った事業も育ってきています。

 ユーザー側の視点で見ると紙の新聞は減っていくにしても、ニュースを読みたいというニーズは減っていかないと思います。今後もジャーナリズムの価値自体は変わらないけれど、伝え方が多様化していく。どんな手法がいいのかを必死で考えなくてはならない時期に来ているのかなと思います。

堀江:その日に起きたことが、翌日には600万近い世帯に届くというメディアはそうはありません。そこは大きな強みだけど、今後も新聞の部数、広告収入が減っていくのは間違いないと思う。一方で、朝日新聞社では、デジタルや不動産など、これまでのアセット(資産)を使った事業というのも育ってきています。

 ユーザー側の視点で見ると紙の新聞は減っていくにしても、ニュースを読みたいというニーズは減っていかないと思います。今後もジャーナリズムの価値自体は変わらないけれど、伝え方が多様化していく。どんな手法がいいのかを必死で考えなくてはならない時期に来ているのかなと思います。

「安定」を求める人たちには、新聞社は敬遠される?

堀江:僕が入社したのは1987年。昭和の終わりのころですが、安定志向の人は銀行に入りました。でも、当時都市銀行だけでも13あったのに、いまのメガバンクは三つです。再編と統合が繰り返され、決して「安定した業界」ではなかった。しかも、今後は人工知能(AI)の波に一番さらされる業界とも言われている。もちろんメディアを取り巻く環境も厳しく、大変な道のりだとは思いますが、挑戦しがいのある時期であるのは間違いない。世界の伝統メディアでデジタルメディア企業への転換に成功しているところはまだありません。うまく道を切り開けば、世界的に注目される事例になるのではないかと思います。

新聞業での収益アップの方策は?

堀江:紙の部数自体は、報道の質を磨き、商品の質によって支えていくということだと思います。2018年は、報道、広告、技術で新聞協会賞3冠をとりました(コラム参照)。広告については、バーティカルメディアなどを立ち上げて収入を増やしていくことに挑戦しています(※1)。また、メディアラボの取り組みで、紙の広告収入に貢献できた例もあります。2年前のSMAPのファンの方々、2018年9月の安室奈美恵さんのファンの方々によるクラウドファンティング「A-port」を利用したケースです(※2)。どちらもファンの方々が応援メッセージを紙面広告にしようというプロジェクトでした。広告掲載後に、ファンの方からたくさんのお便りをいただき、うれしかったですね。

新聞協会賞をトリプル受賞

 日本新聞協会が2018年9月に発表した「新聞協会賞」で、編集部門の「財務省による公文書の改ざんをめぐる一連のスクープ」と、技術部門のデジタル指標分析ツール「Hotaru」、新聞広告賞として、メディアビジネス部門の「朝日新聞社SDGsプロジェクト」が受賞しました。
新聞協会賞受賞

公文書の改ざんスクープ

Hotaru

大学SDGs ACTION! AWARDS

※1 特定の分野に特化した情報を掲載したメディア。詳しくは「02デジタル戦略」で紹介。
※2 「SMAP大応援プロジェクト」は、ファン有志3人が発起人となってファン約13000人から支援を募り、SMAPへのメッセージを全国紙の広告を通じて届けた。

メディアラボの基本戦略は?

堀江:経営というのは知的な作業ですが、一つは足元を掘り下げる「深化」、もう一つは新しいことを探す「探索」がある。イノベーションというのは、既存の知と新しい知をつなげることだと早稲田大学の入山章栄さんがおっしゃっています(「ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学」日経BP社)。入山さんによれば、日本の会社は足元を掘り下げる「深化」は得意だが、「探索」は苦手で、すぐに成長が止まってしまう、と。

 先ほど申し上げた通り、朝日新聞社は伝統的にずっと「探索」をやってきた会社です。明治12年(1879年)に大阪で創業し、9年後に東京に進出してきたベンチャーでした。明治43年(1910年)に紙面で寄付を呼びかけて、白瀬隊の南極探検を支援したのは、今で言うクラウドファンディングです。夏目漱石ら社外人材の活用も積極的にやってきた。甲子園大会なんて、大変人気のあるイベントの立ち上げに成功して、100回も続いています(※3)。

 僕らのメディアラボは、「探索」を続けていくための「装置」です。ドイツの複合メディア・アクセル・シュプリンガーはデジタル収入を伸ばし、ベンチャー投資や企業買収、新規事業も戦略的に展開し、成果を挙げている。そういったところを見習っていきたいと思います。事業の中心にジャーナリズムがあって、その周囲にいくつかのサービスを作っていく。そんなエコシステム(ecosystem=ビジネス生態系)を目指したいと考えています。全国ネットワークとブランドと、投資のための資金もある。今がチャンスです。

※3 “夏の甲子園”と呼ばれる全国高校野球選手権大会。京都二中(旧制)の生徒たちからの「野球大会を開いてほしい」という申し入れを受け、大正4年(1915年)朝日新聞社主催でスタート。2018年、100回を迎えた。

社員のモチベーションへの波及効果はありましたか?

堀江:たとえば、ラボには「moovoo(ムーブー)」という事業がありますが、提案者はエンジニアです(※4)。最初の提案では翌日の話題になるニュースを流すという内容でしたが、全然反応がなかったので、方向転換して家電・キャンプ用品などの「モノ」を動画で紹介するウェブマガジンにしました。エンジニアだけど、プロデューサーとしての役割を果たしてきた。マルチな役割をこなせる。それって今の時代に必要な人材だと思うんです。与えられた仕事をこなすだけでなくて、顧客の意見も聞いて自分で考えて路線変更して、売り上げがあがるものを作っていく。もう一つが、「チーム力」。START UPに応募する際に一番大切なのはチームです。いろんな部門の人を巻き込まなくちゃいけない。そういう行動をこれから入る人にも期待したいし、そのための道を会社はちゃんと用意しているよ、ということをはっきりと伝えたいですね。

※4 事業リーダーの深田陽介は、2009年にエンジニアとして入社。新規事業のシステム計画・構築、スマホのARアプリの開発、自然言語処理・人工知能を使った記事活用の研究に従事。2016年社内事業コンテスト受賞によりmoovoo事業を立ち上げた。

どんな人材に入社してほしいですか?

堀江:ニュースに対するニーズはむしろ高まっていると思う。伝え方が多様化する中、新しい道を探っていかねばならないし、そのための体制もだいぶできたというのが、いまの朝日新聞社の状況です。逆にいうと、構造を変えるチャンスでもある。ぜひ挑戦してもらいたい。いろんなコミュニティーに刺さる情報を提供していくのが、これからのメディアの役割です。アンテナを高く張って、いろんなことに好奇心を持ち、さまざまな人の悩みや夢に耳を傾け、その解決のために動き、知恵を出せる人が一番、この業界を楽しめると思います。

 メディアを取り巻く環境は厳しいです。けれど、逆風でも、うまく帆を張ればヨットは前に進みます。一番しんどいのは風がないことですが、いまは、波は高いけど風は間違いなく吹いている。うまく帆を使えば新しいメディアを作り出せる。そこを期待されているのは、僕らの世代ではなく、新しい世代です。新しい世代は、新しいメディアについてのセンスを持っていると僕らは信じています。間違いなく面白い時期です。ぜひ一緒に挑戦してほしいと思います。

Profile

堀江隆(ほりえ・たかし)
 執行役員、メディアラボ室長。
1987年朝日新聞社入社、横浜・甲府支局を経て東京経済部・政治部などで首相官邸、自民党、外務省、金融、財務省、自動車、流通などを担当。2012年に東京編成局長補佐、2013年東京経済部長。2015年からメディアラボ室長。

Profile 堀江隆(ほりえ・たかし)

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