Next Field Next Field

創業140年の「ベンチャー企業」

2019年1月に創刊140周年を迎えた朝日新聞社。その間ずっと受け継がれてきたのは、何事にもチャレンジする「ベンチャー精神」。その多様な取り組みを、インタビューや事例を通して紹介します。

01 新規事業

メディアラボ発・AIカメラで撮影した動画を配信する「LiveA!(ライブエー)」とアライアンス事業部が立ち上げた学童保育のお困りごとを、「学び」で支援する「放課後たのしーと」。子どもと大人をつなぐ、ふたつの新サービスをご紹介します。
(タイトル画像をクリックしてご覧ください)

「LiveA!(ライブエー)」は、AIカメラを使ってアマチュアスポーツの試合を撮影し、ネットで配信するサービス。2021年8月にスタートしたこのサービスは、テレビで中継されることはない「地区大会の1回戦」から映像化することで、自分の子どもが出る試合を見たいのに仕事やコロナ下で簡単に観戦にいけない保護者たちに、子どもの活躍する姿を自宅に届けます。
このサービスを立ち上げたメディアラボ・植田佳典さんに話を伺いました。

社内公募で事業化 新たな市場に挑戦中

 2021年、人工知能(AI)を搭載したカメラで撮影したスポーツ映像を配信するサービス「LiveA!(ライブエー)」を事業化しました。目指すのは「アマチュアスポーツの振興とビジネス化」です。

 事業で使うのは、イスラエル製のAIカメラ「Pixellot(ピクセロット)」です。直径30センチほどの円盤型をしたポータブル式で、二つのレンズで撮影した映像をつなぎ、選手やボールの動きを自動で追いかけて配信してくれます。複数のカメラとスタッフで撮影するこれまでのスポーツ中継に比べて、約9割以上も経費を削減できるのが特徴です。

転機はテレビ局出向

 きっかけは2016年、メディアビジネス局から大阪の朝日放送(ABC)に出向し、新規事業の開拓を担当したこと。新しい技術を求めて米国ラスベガスのテクノロジー見本市に出張した際に、ピクセロットを見つけました。

 「米国のケーブルテレビや高校スポーツ団体と連携し、新たなスポーツチャンネルを立ち上げた」と発表されていたのを見て、「日本にローカライズしたら、でかい市場があるんじゃないか」。好奇心がうずきました。

顧客は学生スポーツの保護者

 本当は人見知りで、「右にならえの性格」。しかし、ABCで担当したベンチャー投資の仕事で会った経営者たちは、社員の人生を抱えながら「生きるか死ぬか」の覚悟を持って仕事をしていました。「自分はそうしてきただろうか」。働き方を振り返るきっかけになりました。

 朝日新聞社に復帰した2018年春に、新規事業を社内から公募する「STARTUP!」制度に応募して、最終審査を通過。予算を獲得して、2020年夏にメディアラボに異動して専念することになりました。現在は中学高校のバスケットボールの大会を中心に撮影し、仕事や新型コロナウイルスの影響で我が子の活躍を見られない学生スポーツの保護者に、1試合ごとに動画を売るビジネスを展開中です。

「後輩たちもチャレンジを」

 大学時代に所属したアメリカンフットボール部の試合では、何万人もの観客がスタジアムを埋めるのを見ました。「選手が積み重ねた日々の証明が映像に残る。収益が安定したら、アマチュアスポーツが持続可能になれるように還元したい」

 朝日新聞のような会社で新規事業を始めることは、「給料を保障されたままチャレンジできる。どう考えても恵まれた環境だ」と考えています。社内のイノベーションを成功させることで、「後輩たちにもチャレンジャーを増やしたい」と奮闘しています。

(聞き手・矢吹孝文)

Profile

メディアラボ
植田佳典(うえだ よしのり)

 大阪市出身、長野県育ち。大学時代は体育会でスポーツ漬けの日々を過ごす。2002年に朝日新聞社に入社。
 広告局(現メディアビジネス局)に配属され東京、名古屋、大阪と転勤。広告局ではファッション・化粧品や映画、食品分野の営業などを担当し、2016年春には大阪にあるテレビ局の朝日放送(ABC)に出向して、新規事業開発やベンチャー企業への投資を経験。

Profile 植田佳典(うえだ よしのり)

「すき!がみつかる 放課後たのしーと」は、学童保育(放課後児童クラブ)向けにあそびのプリントを無料提供するサイト。放課後を過ごす子どもたちに有意義な時間を過ごしてほしい、という思いから始まったこのサービス。あらゆる世代の「学び」をサポートする、朝日新聞のならではの視点が生きています。
このサービスをスタートさせたアライアンス事業部・萩原久美子さんに話を伺いしまた。

学童保育の悩みに向き合う

 「あすは何して遊ぼうか」――。子どもには楽しみですが、放課後の小学生を預かる学童保育(放課後児童クラブ)にとっては大きい悩みになっています。2019年末に朝日新聞社から事業化した「放課後たのしーと」は、小学生を預かる施設に学びや遊びのたねとなるプリント「たのしーと」を無料で提供しています。

 「あそびは最高の学び」がコンセプトで、工作、お絵かき、クイズ、体を使った遊び、クロスワードパズルなど、A4の用紙1枚のシートが2千種類以上あります。4月の学年始めから3月の学年末にかけて難易度を調整してあり、毎日遊んでも数年もつ仕組みです。学童のスタッフ向けに、シートごとに教え方やポイントを説明したガイドが付いており、新人やアルバイトでも遊ばせることに困りません。

 サービス提供開始から約1年半で、登録施設数は6000超、利用児童数は50万人を突破。2020年に厚生労働省が発表した全国の放課後児童クラブの登録児童数は約131万人であるため、シェアは38%になります。「新型コロナウイルスで施設の負担がさらに増え、学童に特化したサービスなので登録や利用が進んだのでは」と考えています。

「明日も行きたい」を求めて

 きっかけは萩原さんの長男が小学校に入る前、2016年秋のこと。多くの学童を見学して感じたのは、「どこのスタッフも疲れきっていた」ということ。学童は保育園と比べて補助金が少ないだけでなく、児童40人に対して支援員が2人程度と負荷が高いため、慢性的な人手不足という悩みを抱えています。

 そうした現場では、「子どもが安心・安全に過ごせない」「楽しく過ごす仕組みが充実していない」といった、保護者や施設が改善を求めている切実な課題があります。

 学校より長い時間を学童で過ごす場合もあるため、時間を持て余して「もう、行きたくない」と言い出す子います。「放課後の時間が楽しく、豊かなものになってほしい」と、様々な種類の遊びに触れられる仕組みを考えたのがアイデアの始まりでした。

 そこで、朝日新聞社内で社員から新規事業案を公募している「STARTUP!」制度に応募しました。「施設の負担を少しでも減らし、子どもが『明日も行きたい』と言える学童を増やしたかった」といいます。

「たのしーと」の内容は、東京学芸大学やNPO法人の「東京学芸大こども未来研究所」と朝日新聞社が共同研究した結果をもとに制作しています。子どもが夢中で遊べるように、制作チームには「ピタゴラスイッチ」や「うんこドリル」のクリエイターも参加しています。

 もともと人脈があったわけではなく、「この人に頼みたい」という相手に正面から頼み込みました。「保育園の待機児童問題に比べて、小学生の放課後は忘れ去られていた。子どもたちの放課後を楽しく豊かな時間にする、という理念に多くの人が賛同してくれた」

収益は企業連携と学童のデジタル化

事業を支える基本的な収益源は、企業との連携です。協賛企業のライオンは「正しい手洗いの方法が学べるシート」を作り、ハンドソープの「キレイキレイ」と一緒に各施設に配布しました。ハンドソープのボトルは、子どもたちがイラストを書いて自宅に持ち帰れるようになっています。

学童の現場で正しい手洗い習慣が身につくプログラムを実施してもらうことで、企業理念を子どもたちに届けることができ、ハンドソープをマイボトルにして自宅に持ち帰れば家族全員が親しみを覚えるブランドになる、という工夫です。コロナ禍のなかで、このプログラムは2万人以上の子どもが参加しました。

トヨタ自動車とも連携しています。昆虫のトンボを題材にした環境問題を考えるコンテンツを共同で制作し、1万5千人以上が利用しました。環境問題や持続可能な開発目標(SDGs)に対する企業の取り組みが、遊びを通じて子どもたちに伝わるようになっています。

今後は6000施設を超える学童とのつながりを活用した収益を見据えています。アンケートやヒアリングで現場の声に耳を傾け、大きい課題から順に解決していく方針です。おやつや文具、遊具の販売、支援員のサポートプログラムなども構想しているそうで、「施設も企業も『ちょっと得した』と思えるシステムをつくり、学童向けのプラットフォームになりたい」と意気込んでいます。

(聞き手・矢吹孝文)

すき!がみつかる「放課後たのしーと」ご紹介動画
サムネイル
Profile

アライアンス事業部
萩原久美子(はぎわら くみこ)

 朝日新聞ビジネス開発センター、アライアンス事業部ディレクター。
 熊本県出身。大学卒業後に印刷会社に就職し、2006年に朝日新聞社に中途入社。電子電波メディア本部からメディアラボを経て、2020年4月から現職。2021年6月から、朝日学生新聞社の社外取締役を兼務している。

Profile 萩原久美子(はぎわら くみこ)

PAGETOP